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企業と地域スポーツがつながる時代とは?

株式会社スポーツウイングス
いま、地域スポーツと企業の関係が大きく変わりつつあります。単なる「広告枠としてのスポンサー」ではなく、企業が地域とつながる“まちづくり”の一環として、スポーツを応援する時代へ。今回は、長年スポーツマーケティングの現場に関わり続けてきたスポーツウイングス代表・安井直樹様に、ウマク代表・清水がインタビューを行いました。
現場で感じているリアルな課題と、スポンサーの新しい価値のかたちについて語っていただきました。

スポーツ経営は「利益」だけでなく、「勝利」「普及」という3つのミッション

清水:まずは、安井さんの自己紹介と、これまでのキャリアから教えてください。

安井:株式会社スポーツウイングスは、「スポーツを通じて地域を元気にする」をテーマに、スポンサー営業の支援やスポーツチームの運営、イベントの企画運営を行っています。単なるコンサルではなく、実務レベルでスポンサー獲得から企画づくりまで一緒に伴走するのが特徴です。
スポンサーとチームの両方にとって価値のある仕組みを作ることを大事にしています。

最初のキャリアとして、人材派遣会社に営業職で入りました。時代はリーマンショック。世間では内定取消も出る中、僕らは入社できたものの、早々にリストラの空気が漂っていました。そういった中で縁あってお誘いがあり、2009年5月にプロバスケットボールチーム大阪エヴェッサへいくことになりました。

配属はエヴェッサ・カレッジ(専門学校的な取り組み)の募集営業で当時は反響も少なく、上司2名で捌ける程度。僕は「売上を上げれば怒られない」と考えて、勝手にチームのスポンサー営業を始めたんです。
するといきなり当時、東証一部企業のスポンサーが決まって、そこから営業部を組織化する流れになり、僕が人を採用してスポンサー営業部を立ち上げ、6年で年間500社くらいまで広がりました。

その結果もあってか、大阪エヴェッサの社長を任してもらうことになりました。スポーツ経営は「利益」だけでなく、「勝利」「普及」という3つのミッションを同時に追う必要があります。勝利を優先すると人件費が増える。普及は時間がかかり効果が見えにくい。僕は勝利に投資する方法を選び、人件費をかけたら勝ち始めて集客も伸びました。
ただしこれは資金がある前提のやり方で、お金がないチームでの再現性は正直わからない。勝利起点は成功体験として残りましたが、普及起点は時間がかかるうえ可視化が難しいんです。12年ほど大阪エヴェッサに関わり退任し、2022年に株式会社スポーツウイングスを立ち上げました。

株式会社スポーツウイングス 代表取締役社長 安井直樹

スポンサーになることで得られる価値を正しく伝える

清水:チームにとって大切な資金でもあるスポンサー企業さんを集めるのも大変だと思いますが、あらためてスポーツウイングスを立ち上げてから、どのようなことを意識していますか?

安井:やっぱり大前提として”いきなり費用対効果を求めるのは難しい”という現実があります。だからこそ、僕たちがまずやるべきことは、スポンサーになることで得られる価値をきちんと伝えることだと思っています。
地域スポーツクラブに企業が関わることで、保護者や地域の方々との接点が生まれる。そこで“この会社さんがこの活動を応援してくれているんだ”ということが伝わると、共感や信頼が育つんですよね。

例えば、連絡帳やメッシュケースなど、小学校で毎日使われる実用品にチームや企業のロゴ・メッセージを入れて小学校へ寄贈/配布する商品です。地元の子どもと保護者に確実に届き、地域貢献とPRを同時に実現できます。
大阪の事例で言うと、大阪のとある市の小1全員にロゴ付きのメッシュケースを配ったりしました。ロゴのライツ(使用権)を名刺や媒体に使える価値を感じる企業も多いです。ただのティッシュ箱でも、デザインやチームの要素が入ると喜ばれますし話題の種にもなりますが、その一方でロゴのチカラにあまり興味がない企業もいます。“地域のこの学校・この子どもたち”という的(まと)に価値を置く企業もあり、地元に所縁があるから応援したい、という指標も強く感じています。

今は“応援消費”の時代です。ロゴが載っているだけでは動かないけれど、“この企業さんが支えてくれている”と伝わると、人は心を動かす。僕はそこに、すごく大きな意味があると思っています。
企業も“やらされている”のではなく、“自分たちでやる意味”を見つけられるようになると、持続的な関係になりますね。

清水:ウマクも微妙ながら、堺シュライクス(関西独立リーグに加盟するプロ野球)のスポンサーをしていて、スポンサー側の立場として大きく分けて「① 営利目的のスポンサー」「② 地域貢献としてのスポンサー」2つの種類があると考えてます。この2つって、全然アプローチも違うし、求められる成果も違う。

でも、①営利目的で考えると、“費用対効果”という視点で考えざるを得なくなる。正直、スポーツの場って、デジタル広告のような明確な実績やリーチ数があるわけではないですし、即効性も測りにくい。

安井:そうですね。だからこそ、②地域貢献の側面でスポンサーをする企業の存在が、本当にありがたいですし、意味があると思っています。実際、この街の子どもたちを応援したい、や地域に根ざした会社として貢献したい、という気持ちで関わってくださる企業さんは多くなっていますね。

清水:僕自身も、最初は“ウマクの認知拡大になれば”という気持ちもゼロじゃなかったですが、実際に取り組んでみて、地域とのつながりや子どもたちの姿を見ているうちに、“これはもう費用対効果じゃないな”と思うようになったんです。
正直、ロゴを名刺に入れることにはそこまで興味がない。でも、堺区の小中学校のためになるなら即決で協力したい。

バレーボールチーム「日本製鉄堺ブレイザーズ」が取り組んでいるBlazers Smile Action(ブレイザーズ スマイルアクション)なんかは、まさに安井さんも関わられた商品で弊社も微力ながら参加しました。
~ウマク株式会社様ご協力のもと堺区内の小学校へ「スマイルボール」および「ビブス」を寄贈~

ただ、費用対効果視点で企業のビジネスにとってスポンサーの価値を感じられる方法があります。
それは、スポンサー同士がつながれる空間の場所の提供なんですよね。チームメンバーのイベントの場では他スポンサーさんと顔を合わすことがありますが、そうじゃなくて、企業間として新しい共創やビジネスチャンスの取り組みとして専用の場をチームが設ける、ということです。

それぞれの企業課題を参画しているスポンサーが助け合う。これって、めちゃくちゃ価値あるなと感じてます。

安井:たしかに、“スポンサー同士が地域でつながる”っていう視点は、すごくいいですね。そうやって企業さんがつながり、そこから何かが生まれたら、結果的に地域全体が元気になる。それも、スポーツの場だからこそできることかもしれませんね。

企業が地域・子ども達の未来に対してできること。それを考えるきっかけがスポンサーという行動

安井:今後は「まちづくり」が重要なキーワードだと思っています。商店街をホテル化した事例なんかも最近はありますが、ああいう発想の転換をスポーツでもやりたいと考えています。
スポーツウイングスとしては、まちづくり系のスポンサー商品を全国に広めるのが展望です。大阪に限定せず、「地域をスポーツで変えていく」提案を増やしたい。“応援してください”ではなく、“一緒に街をつくりませんか”という言い方で。結果としてブランド浸透にもつながる。
ただ、時間はかかるし、この手の価値にピンと来ない人も多い。だからこそ地道にやるしかない。スポーツという手段でまちづくりを下支えする会社でありたいですね。

清水:地域スポーツは、ただの「運動の場」ではなく、人と人、企業と人、企業と企業をつなぐ場でもあります。その流れが、これからのまちづくりの一つの形になっていくのだと感じました。安井さん、ありがとうございました!

ウマクでは、本質的なマーケティング課題と組織的課題に向き合い「人」に寄り添った伴走型のコンサルティングを心がけています。カジュアルに無料相談して頂けるとウマク支援します。